読書の話【大水滸伝シリーズ/北方謙三】これが漢の生きざま?
結構読んでる人も多いでしょうが、北方水滸伝シリーズの話をします。
既に文庫も定期刊行は終わっていますが、本が売れない時代の本屋の新書コーナーで、
平積みが何列もできるベストセラー本でした。
私は、水滸伝の前にやっていた、北方版三国志で、北方氏の作品に魅了されましたね。
大水滸伝シリーズは、以下の三部の構成になってます。
水滸伝 (全19巻)、 楊令伝 (全15巻)、 岳飛伝 (全17巻)
集英社<https://www.shueisha.co.jp/dai-suiko/>
いわゆる水滸伝は、中国で小説として明代に書かれ、
日本には江戸時代に持ち込まれまれたようです。
ざっくり言えば、悪政を正すために108人の好漢が集まり政府を倒す物語ですね。
吉川英治や柴田連三郎の小説などが有名ですし私も読みましたが、
こと水滸伝に関しては、他を大きく引き離して、北方作品がナンバー1だと思います。
水滸伝は、よく言及されますが、物語として時制がバラバラだったり、
登場人物の人格がコロッと変わったりしてグダグダで、
強敵を妖術で一蹴したりと、ちょっと現実離れしています。
既存の小説は、その域から脱しておらず、ファンタジー小説でしたね。
北方水滸伝はというと、妖術などは出てきませんし、非常にリアルです。
創作である小説に、リアルというのは変な表現だとは思うけど、
現実の世界の出来事だとしたら、起こりそうな、ありそうな、というリアルさですね。
戦い続けるための資金づくりや、複雑な政治問題など、実在の国を見るようです。
また、原点のように梁山泊ばかり勝つのではなく、政府側(宋)も強敵です。
敗北したとはいえ、梁山泊の男たちの丁寧な書かれ方が、感情移入するに十分でした。
もっとも、吉川版などに対しての不満な部分が反作用して、私の受容体の感触が
よくなったのは否めませんが、それでも北方氏の描く漢(おとこ)たちは
誰もが素敵でかっこいい生き様でした。
そもそも、敵方までかっこいいですからね。
敵味方問わず、両方かっこいい作品は当たりますね。ガンダムもそうですし。
ちなみに、この作品を会社の先輩にも貸しましたら、彼も夢中になりました。
出張でシカゴから乗る飛行機の中で読んだようで、
本が返ってきた時にボーディングチケットの半券がしおり代わりに挟まってました。
揚令伝は、前作で敗北した梁山泊の好漢達が、
揚令を頭領にして再び政府に立ち向かい、梁山泊という国の建国を模索する話です。
実は、揚令は108人には入ってません。完全に北方謙三の創作キャラです。
揚志の義理の息子という設定ですね。
作家が創作する余地もある、と北方氏はいろいろなところで書いています。
当時、ネットの某巨大掲示板では、この揚令に賛否ありましたが、
私の場合は、楊令伝を悪くない感じで受け止めてます。
単なる武将としてだけではなく、国の経営面などを考えなければならない、
孤独の天才、という部分に哀しさも感じられます。
結末は仕方がないんでしょうけど、そういう感じなのね、ほろ苦って感じ。
結構ハッピーエンドが好きなニワカな私としては、
宋江のバカ殿様が生きていればなー、少しは楊令の代わりができたのに、
と何度も思いながら、読んでましたね。
そしてシリーズ最後を飾る岳飛伝ですが、私は歴史小説好きとして、
おさえで読んだだけで、正直、それほど夢中にはなれませんでした。
これが単発の岳飛伝として刊行されてたら、1巻で買うのをやめてたかもしれません。
毎月1冊刊行された時も、今まではすぐに読んでいたシリーズでしたが、
巻が進むにつれ、買っても数日寝かしたり、読むのがたまってしまいましたね。
どうしても、最後まで岳飛にシンパシーを感じることが出来ませんでした。
実在の人物としての大物、岳飛は、中国では1番人気の歴史ヒーローらしいですが、
楊令伝で登場した時から、私には、あまり興味のない人物でした。
さすがの北方氏の筆をもってしても、
「いいか、岳飛は大物なんだぞー」という押しつけが見え隠れし、違和感ありました。
本作でもどちらかというと、108星の秦明の子供、
秦容(架空)の方に好感を持ってましたね。
なので、岳飛が出てくると読み飛ばして、早く秦容が出てこないかな、などと。
本作の水滸伝では、いきさつ上、敵方として登場した岳飛が、岳飛伝では、
主人公になって、思想上近いという理由で梁山泊の同盟相手になっても、
私にとって、思い入れをもって読むことはできなかったですね。
なので、私の中では、岳飛伝ではなく、秦容伝のがしっくりきますかね。
とはいえ、まずはこの巨大なシリーズを書ききった北方氏はすごいですね。
目標は高くとも、尻切れになってしまう作品もあるでしょうが、
一定の人気(それもベストセラー的な人気)を保持したまま、
全51巻を完結させるのは、さすがに並の作家では無理かと思います。
原点の水滸伝を、子供だましの小説を思ってた人がいたら、
その先の楊令伝・岳飛伝は、好みが分かれるかもしれませんが。